《MUMEI》

それは、私が、中学を卒業する日の事。

卒業式が終わると、私は、裏門の小さな桜の前に立っていた。

(…来て、くれるかな?)

私はそこで、同じクラスの仲村君を待っていた。

…10年間の片想いに、終止符を打つ為に。

―出会いは、5歳の春。

丁度、あの日もこんな風に、桜が咲いていた。

その日は、家族全員で、近くの公園に、毎年恒例の花見に来ていた。

あまりにも桜が綺麗だったから、私は桜にみとれていた。

そして。

いつの間にか、皆と離れ、迷子になっていた。

心細くて、涙ぐんでいると…

「どうした?」

誰かが、声をかけてきた。
「? だあれ?」

その時、私の目の前にいたのは、女の子みたいに可愛い顔の、男の子だった。

「おれ、なかむら しん。おまえは?」
「…」

私は、母さんに、『知らない人に名前を教えちゃ、駄目よ』と言われていたから、名乗れなかった。

「なんだよ、はなせないのか?」

『なかむら しん』と名乗った男の子は、困ったように、首を傾げた。

そして、

「いいや、こいよ」

そう言って、私の方に、手を差し出した。

私は、恐る恐る手を繋いだ。

それから、私達は二人で桜の中を歩いた。

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