《MUMEI》
報い
こんな事があったもんだから、体育館の戸が開いて生徒以外の誰かが入って来ると挨拶は必須になったんだよね。

練習に打ち込んでいて気付かなかった場合は、他の部活や誰かが声を発した後に便乗する。


この日の練習は最初から最後までバレー部とバスケ部のみで行われた。

その間、バレー部の顧問がいつも通りコーヒーを飲みに出入りする以外は、誰の出入りもなかった。


…うん、絶対。


バスケ部は入り口側のコートを使っているから比較的最初に気付く事が多いし、戸が開いた拍子に「ちわー!」なんて叫んだ相手が生徒だった事もしばしば。

…あたしもやった。

今、1コートまるまる使ってレイアップ(某バスケ漫画で主人公が言った「庶民シュート」の事)の練習が始まろうとしている。


『あっつ〜…。』

「一葉さんだけですよっ、そんなカッコ♪」

後輩の真緒ちゃんが言う。

『え…?』

あ、ほんとだ。

こんな暑苦しいカッコしてるのあたしだけだ…。

いつもは開けられていた、外に繋がる戸を見る。

…そうだった。

広田が来て以来、バスケ部のみorバスケ部とバレー部のみの日は、夏場だろうが年がら年中全ての戸・窓は閉める事になっていた。

「体力作り」が名目。

『しぬ。』

「…今なら大丈夫じゃないですか?」

『…かなぁ?』

「私見張ってますよっ。」

そう言ってビシッと小さく右手をグーにする真緒ちゃん。

かわいい。

『ほんと?ありがとっ、お願いっっ!』

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