《MUMEI》
形跡形
「―――――――痛ッ」
樹はバスケで軽い突き指をした。樹だから軽くで済んだのだった。

何者かに引っ張られボールの方へ投げ出された。
反射的に避け突き指で済んだ。

樹は一人保健室に行く。

保健室はアラタとの契約がある。
樹の小指の傷が疼く。

「樹だ。」
聞き慣れた呼び声に自然と樹は反応してしまう。
田畑若菜はアラタとの契約があった保健室のベッドに横になっていた。

クスリと嗤う彼女は樹の知る彼女ではない。

「た、田畑……」
樹は若菜との決別を明確にするために苗字で呼ぶ。

「若菜って呼んでよ、昔みたいに。」
若菜は寝ながら言う。


「……苗字で呼び始めたのは田畑からだ。」

「あら、そうだった?」
親しげに話す二人はかつての恋人同士だった頃のようだった。


「中学に行った」

「ふーん」

「田畑のだよ?」
樹と若菜の出身中学は違う。
全く若菜の表情に変化は無い。

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