《MUMEI》

「…で、何で入っちゃいけないの?」
「いや、丁度、今、皆、その…高山の話で盛り上がってて」

(私の?)

私は、木下君の口調から、どうせ、悪口だろうと思った。

私は、ため息をついた。

「いいわよ、別に。いつまでもここにいるわけにはいかないし」

私は、開き直り、中に入っていく。

「一緒に行くよ!」

木下君が、慌てて、私の後に続いた。

私が、座敷の入り口にさしかかった時。

「離婚って、『たかまる』の暴力じゃねぇ?」
「きっと、そうだよ」

そんな声が、私の耳に入ってきた。

その声に、私の足が止まる。

「木下君…」
「悪い、離婚したって言っちゃった」

振り返ると、木下君が、軽く頭を下げた。

―その時。

私がずっと聞きたかった人の声がした。

「あのさ、じき高山来るし、そろそろ、そういう話やめない?」

その声に反応するように、私はもう一度座敷の入り口の方に向き直ると、

トンッ…

木下君が、軽く私の背中を押した。

私は、皆の目の前に、立った。

木下君が、軽く私を紹介したから、

「…久しぶり」

と、気まずさから、ややうつ向きがちに、挨拶した。
(う…)

皆の、視線が、痛い。

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