《MUMEI》

俺の親がとうとう離婚し、俺は平高から藤田になった。確かに前は気にしていた変事も、今になってはたいしたことない。

俺の目標が明確になったからだろうか。

俺はあれから佐藤と会うことは無かった。
しかし佐藤と同じ学校のやつに志望校を聞き出し続けた。
見た目も整え俺とはすぐには気付かれないようにして近付いた。
俺が苦労した甲斐あり、佐藤は俺だと全く気が付かない。
もしかしたら、忘れられたのかもしれない。

佐藤はもっと夏川のときみたいに他人を敏感に思いやれるやつだとばかり思っていたそれが違うと佐藤に近づくにつれて気が付いた。

自分に最も気を許すやつを探してそいつにだけは本質を曝す。
誰にも平等、誰にも優しい佐藤の本当の姿はいかに自分を上手く演出する術を楽しみながら一方でその作った自分を軽蔑している。


俺もそうだ。
夏川と佐藤と話していたあのとき、俺が俺でいられた。
俺と同じだった異質を受け入れた佐藤に本音で付き合えるという夢を見た。

同じクラス、最も近くにいても、佐藤が夏川に見せたあの表情を手に入れることが出来ない。

夏川を越えられない。

佐藤の心の内に触れてみたい。俺はつかず離れずの距離を保った現状に不満を持っているわけではないが、佐藤の横を歩いていてもどこか違和感を感じた。


俺は自分を隠し続けて、夏川の場所を手に入れた。
その夏川を越えられずに本音を曝せない半端な心は何処に寄り掛かればいいのだろう。

俺はここにいてはいけないんじゃないか?


佐藤の側にいることが互いを駄目にしているんじゃないか?

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