《MUMEI》

「いや、いい」

屋代君はそんな私の提案を断って、曲を選び始めた。
(そうだ)

私は、さっきの嫌がらせのお返しに、少し意地悪をすることにした。

「屋代君、これ歌える?」
「歌えるけど…」


それは、さっき私が歌ったロックバンドのアルバム曲。

音域が広くて、一番難易度が高い。

しかも、バラードだから、ごまかしも効かない。

「歌って」
「何で、俺が」
「私好きだけどキーが低くて歌えないから。
それとも、自信無い?」

キーが低くて歌えないのは、本当だった。

私の挑発に、屋代君がピクッと反応する。

そして、渋々と入力した。


「うまいね」
「あいつの十八番だから」私の呟きを聞いて、仲村君が教えてくれた。


(ゲ…)

失敗、した。

「仲村君、もう歌える?」私は、話題を変えた。

「え、あぁ」

仲村君が、曲を選び始めた。

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