《MUMEI》

「…とにかく。また結婚や、妊娠の可能性があったら、すぐに言いなさい。
相手に、説明する必要があるから」

『また』

その言葉に、私の胸が痛んだ。

「はい」

「…優しい感じに、見えたんだけどな」

うつむく私に、林先生の呟きが聞こえてきた。

…林先生は、

私の元夫に会った事があった。

―結婚前。

私は元夫をここに、連れて来たから。

(…でも)

結局、私の持病は元夫に理解されなかった。

ちなみに、その頃は、薬の量や種類が今とは違い、妊娠時服用を続けていても、胎児には影響がほとんど無いと言われた。

(もしも…)

仲村君とあの当時出会っていれば…

私は、仲村君と結ばれた、かも、しれない…

(もう、過ぎた事よね)

私は苦笑した。

「今度は、いい男見付けろよ」

「はいはい」

私は、適当に相槌を打った。

「それと、…」
「『薬を飲み忘れない』『寝不足にならない』『働き過ぎない』…ですよね?」
私の言葉に、林先生は頷いた。

それは、毎回言われている事だった。

「じゃあ、いつも通り薬出しておくから」
「ありがとうございました」

私は、病院を後にした。

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