《MUMEI》

良幸さんは、私に未練があるように見えた…とは、母さんから聞いていた…が…
弁護士さんが大丈夫だと言っていたし。

私は、心配してくれる家族の為に、早く立ち直るのに必死で。

もう、良幸さんを、忘れかけて、いた。

無理矢理、あの、辛い日々を忘れようと、頑張ってきた。

なのに…

スルリッ

「髪、伸びたな…」

良幸さんが、そう言って、ポニーテールにしていた私のゴムを外した。

そして…

ジャキンッ

「!」

「…動くなよ?手元、狂うから、な?

志穂は、短い方が似合うんだよ」

ジャキンッ ジャキンッ…
ハサミが動く。

せっかく、縮毛矯正とトリートメントに慣れてきた、私の黒髪が…

床に、どんどん、散らばっていく。

「ほら、…綺麗だ」

短くなった、私の頭を、撫でながら、良幸さんは、満足そうだった。

私の体は、硬直したままだ。

どれだけ時間が経とうと…
体が、心が、あの日々に囚われている、ということなのだろうか。

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