《MUMEI》 鉄の味がした「来ちゃった」 昭一郎は学校からバイト帰りだったようだ。 「……帰れ」 玄関前で待ってたのにそりゃないよな。 「昭一郎を待ってたんだよ」 そう、待っていた。 「そこ、退けろって!」 昭一郎は眉間を寄せて声を荒らげた。 「だぁからぁさぁ、入れさせて……」 そんなことを言いながら起き上がるなり昭一郎に接吻する。 キスではなく、接吻。 重みがあるやつ。 壁に追い詰めて両手足を顔を斜め下に向けて羽交い締めにした。 首だけでも抵抗しようという意志が汲み取れる。 昭一郎はアパートの中に干してある洗濯物の柔軟剤みたいなニオイがした。 俺とは違う、実家とは違うニオイだ。 「……な? ここあんまり五月蝿く出来ないんじゃねーのかな?」 脅し付けるのは気が進まないけど、此処まででいくらかかったと思う?ただでは帰れねぇよ。 前へ |次へ |
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