《MUMEI》

本当に、心から、私は大兄さんに、お礼を言った。

私の気持ちに答えるように、うっとりするような笑顔を振り撒きつつ、大兄さんは病室を出ていった。


「今日は、屋代君と一緒なのね」
「あぁ、こいつも気にしてたから」

仲村君が、屋代君を見ながら言った。

「…髪、短くなったな」

屋代君は、私の顔の傷には触れずに、何気ない口調で話しかけてきた。

先日見舞いに来た龍平さんですら、顔の傷の事を訊いてきたというのに…

屋代君は、やっぱり思いやりがある人だと感じた。

ちなみに、私の左頬には、以前のような大きなガーゼではなく、傷跡を隠すように絆創膏が貼られている。

「うん。暑かったし、丁度いいわよ」

私は、いつも通り明るく答えた。

良幸さんに切られ、不揃いだった髪も、先日母さんの知り合いの美容師に来てもらい、今はきちんとしたショートヘアになっていた。
(そういえば、昔の私の髪型はこんな感じだったっけ…)

私は、鏡を見た時、何となく、中学時代を思い出した。

「痩せたんじゃねぇ?」

屋代君が、何気なく訊いてきた。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫