《MUMEI》
プロローグ
体育館の中は暗く、ステージの上だけがライトに照らされていた。

『え〜、2組目はA&Rさんです!!お願いしますっ!!』

3年生のMCと思われる女の先輩が大きな声で言い、後ろの暗幕が開いた。

トゥトゥル、トゥトゥルル―…。

音楽が鳴り始め、A&Rと名乗った先輩たちが踊りだす。どこかで見たことのあるような踊りだった。

「つまんないなぁ〜。」

あたしは言って、ポケットの中の携帯電話を取り出した。備え付けのパズルゲームをやる。意外と夢中になっていて、気が付いたらもう5組目になっていた。

『ラストの5組目は黒猫さんです!!昨日、緊急参戦しました。それではお願いします!!』

ジャジャン、ンギャッ―…。
ボボボン、ヴィーン―…。
ドダタタン、パァン―…。

ステージの上では猫のお面をかぶった3人の人がギター、ベース、ドラムをやっていた。お面のせいで男女の区別も先輩なのかもわからなかった。

カッカッ、カカカカ―…。

ドラムの人がスティックを叩く。そして、唄を歌い始めた。





 つまらない毎日
 退屈な日常

 僕らはなぜ生きるのだ?
 勉強するためか?
 遊ぶためか?
 恋するためか?
 わからない

 僕らは何を求めている?
 才能か?
 金か?
 愛か?
 わからない

 どうしようもないくらい
 小さい僕らだけど
 ただ1つだけ
 伝いたいことがある
[全力で今を生きろ]
 悔いの無いように
 いつ死んでも
 後悔しないように

 さぁ、進もう
 僕らの未来に向かって





唄が終わり、黒猫はステージから降りた。あたしはその姿をずっと目で追いかけていた。

(何なんだ、あいつら?)

そう思った。そして、

(かっこいい。)

とも思った。



これがあたし、桜坂凪(さくらざかなぎ)と黒猫との出会いだった。確か、高校1年生の夏の始まりだった気がする。



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