《MUMEI》
退院前日の面会者
退院前日。

その日は、天気がよくて。
私は、一人で病院の敷地内にある中庭に来ていた。

いつまでも、寝たきりでいたら、いけないからと、私は時々この場所に、歩いて来るようにしていた。

いつもは、誰かが付き添ってくれていたけれど…

その日は、皆用事があり、見舞いには来れないと言われていた。

大兄さんも、手術があるらしい。

ちなみに、大兄さんの彼女はここの看護師だが、

主任なので、とても忙しく、私は滅多に会うことはなかった。

(いい天気…)

私は、中庭のベンチに座り、のんびりしていた。

不意に、目の前に、日陰ができた。

顔を上げると…

見知らぬ男性が、一人、立っていた。

年は、四十代くらいで、身長は、私と同じ位に見えた。

少しくたびれたようなスーツを着ていて、顔には、不精髭も生えていた。

私は、病院には、何となくふさわしくないような印象を受けた。

「あの…?」

「失礼。私、こういう者です」

そして、その男性は…

ドラマのように、警察手帳を取り出して、私に見せた。

「隣、いいですか?」

私が無言で頷くと、刑事さん―渡辺(わたなべ)さんは、私の隣に座った。

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