《MUMEI》

七生は順調に準決勝へ進み、俺達の作品も同じく進出出来た。


舞姫は読みにくい文体の分、完成度も高い。

他の課題で読み込んでいる人も多いから、七生は目を引いた。

「準決勝進出おめでと〜」

四人部屋の一年生の部屋に集まりジュースで乾杯する。

「一先ずエースである俺の大活躍により、準決勝に進みました!」

よく言いますよ七生君。

「ひっこめー」

東屋や高遠が野次を飛ばす。

「先輩、やりましたね。」

安西が小袋のお菓子を渡してくれた。

「うん。良かった、念願のドキュメントで準決勝。」

口に出すと更に嬉しい。

「佐藤と藤田も凄く頑張ってましたよね。俺、地区止まりで情けない。」

安西が肩を落としてしまった。

「安西はいいとこまでいってたんだよ?
足りないのは、あとほんの少しの自信かな?」

安西は努力家だ。
七生みたいに天性の聞かせる声でもなければ、神部みたいな天才肌でもなく、一生懸命読み込んで、その中で見本となるものや理解したものを話して表現に結び付けていた。

努力も才能の一つだろうか。
安西が読み込んだ『暗夜行路』は七生が二年生のとき練習してきた時間の比ではないだろう。





「そこ二人ー!密談しない!主役の俺をもっと敬いたまえ!」

七生はすっかり王様気分だ。

同じ時間量を練習したはずなのに七生が準優勝で安西は地区止まりって、なんて理不尽な世の中なんだろう。


でも安西には悪いけど七生はやっぱりイイ声なんだよなあ。

惚気だな……、口が裂けても言えない。
これ以上調子ヅイたら手に負えないから。

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