《MUMEI》

渡辺さんは、警察署の外で話をする時は、相手が世間体を気にするから、『刑事さん』ではなく、『渡辺さん』と呼んでもらっていると言って笑った。

(そう思うなら…)

私はドラマに出てきそうな、『いかにも刑事』な外見も、整えるべきだと思った。

…あえて、口にはしなかったが。


「明日、退院だそうですね。おめでとうございます」
「…ありがとうございます」

私は一応お礼を言った。


「実は、何度も面会に来たんですが、ご家族のガードが固くて…」

「…すみません」

「いやいや、愛されてる証拠ですよ」

私が謝ると、渡辺さんが笑いながら言った。

「…ところで」

渡辺さんから、笑顔が消えた。


「実は、あなたにお願いがあるんですが…」

「お願い、ですか?」

私が首を傾げると、渡辺さんは頷いた。

そして…


「高原(たかはら) 良幸に、会ってもらえませんか?」

と、言った。

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