《MUMEI》

その言葉に、私の体が震え出した。

「お願いします!」

渡辺さんが、頭を下げた。
「な…んで…」

私は、そう言うだけで、精一杯だった。

渡辺さんが、説明を始めた。

私は、無言でそれを聞いていた。

内容をまとめると…

すぐに捕まった良幸さんは刑務所に入れられたが…

精神的に問題が発覚し、明日には、指定の精神病院に移送される。

ただ…

本人が、治療を固くなに拒んでいて。

周囲が説得したところ…

『最後に志穂に会わせろ』
と、交換条件を出したらしい。

「一回でいいんです、そうしたら、治療が始められるんです」

(…本当に?)

一回で済むのだろうか。

私は、まだ信用出来なかった。

実際、良幸さんとの約束は、一度破られていたし。


「…治療しないと、そっちの方が、再犯の危険があると、担当の先生は言っています」


『再犯』


その言葉に、私はギクリとした。


「治療って…」

「過去の、父親による虐待のトラウマの克服です」


渡辺さんは、良幸さんの過去を話し出した。

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