《MUMEI》

「高原の、背中の傷、見たことあるだろう?」

「いいえ…」

私の答えに、渡辺さんは、頭を掻きながら、

「え? …でも、その…君達、夫婦だったんだよね? 」

と、遠回しな表現で訊いてきた。

渡辺さんが、何を言いたいのかは、わかった。

私は、小声で、説明した。
「いつも、大体Yシャツ着たまま…してましたから…

それに…」

「それに?」

私は、消えそうな声で…

「目隠しされたり、縛られたり、しながら、…された時もありましたから」

と、付け加えた。

「…すまない」

渡辺さんは、ポケットから、しわくちゃなハンカチを取り出して、私に渡した。
…いつの間にか、私は泣いていた。

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