《MUMEI》

「とにかく、横になって。
眠れなくてもいいから、体を休めなさい」
「…すみません、ご迷惑かけて」

私は、楓さんに言われるままに、ベッドに横になった。

「こっちこそごめんね。
あの刑事は近付けないように、気を付けてたんだけど…」
「いえ…」

(そうか…)

『家族のガード』の中に、楓さんも入っていたのだと、私は気付いた。


「…何か、言われた、のね?」

楓さんが、私の涙の跡に触れた。

「…」

私は、無言だった。

「じき、大の手術が終わるわ」

楓さんが、時計を見て立ち上がった。

「私は、仕事に戻るから。
この件は、大に報告するからね」

私が頷くと、楓さんは早足で病室を出て行った。

(忙しいのに、悪かったな…)

私は、そんな事を考えながら、楓さんの小さな背中を見送った。

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