《MUMEI》

「何を言う!可愛い妹のためだから、当たり前だ!」
そして、秀兄さんは、私を抱き締めた。

秀兄さんと病院で会うのは、今日で二回目だった。

秀兄さんは、高山家の跡取りとして、両親の留守中、高山家で経営しているいくつかの飲食店を定期的に巡回していた。

その上、いつものように、その中で自身が料理長をつとめる中華料理店の厨房でも働いている。

現在、家族の中で、一番多忙な人だった。

「お久しぶりです、秀先輩」
「おぉ、慎!久しぶりだな」

慎君が挨拶すると、秀兄さんは、サングラスを外した。


そこに隠れていたのは、やや細めの目。

慎君に向ける少年のように無邪気な笑顔は、中学時代から変わっていないように思えた。


「そっちの彼が、『南中の屋代君』だね!はじめまして、志穂の兄の秀です」
「どうして…俺の名前」

秀兄さんに求められるまま、握手をかわしながら、祐希君が質問した。

「そりゃ、一年ですごい奴がいるって有名だったからね!
学年が同じだったら、勝負したかったよ」
「…ありがとうございます」

祐希君が嬉しそうに礼を言った。

やっぱり、秀兄さんは有名人だったんだなと実感した。

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