《MUMEI》

祐希君から手を離すと、秀先兄さんはまた私の側に来た。

「…さて、行くか」

私に話しかける秀兄さんの表情は、先程と違い、真剣なものになっていた。

「…はい」

答える私の表情も、自然と険しくなる。

(いよいよ…だ)

「あの?」
慎君が、不思議そうに声をかけてきた。

「これから、二人で警察に行くんだ」
「「警察?!」」

秀兄さんの言葉に、慎君と祐希君が、同時に驚いた。
私は…

「『あの人』が、最後にどうしても私と話したいと言っているらしいの」

と、付け加えた。

『あの人』と言えば…

慎君達には伝わる、筈だ。
私を傷つけた犯人。

私の元夫の事だと。

私は先日、貴子ちゃんから、『仲村先輩には犯人伝えてあるから』と、言われていた。

「大丈夫か?」
「その為に、俺が付いていく」

心配する慎君に、秀兄さんが胸を張って答えた。

そう、大丈夫な筈だ。

渡辺さんや、他の警官もいるだろうし。

こうして、秀兄さんも付き添ってくれるから。

(それに…)

心配してくれる家族が…

慎君が、…いる。

それが、嬉しかった。

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