《MUMEI》

「そうそれ。
『仲村君との一時』」

(あぁ…)

無邪気な笑顔の秀兄さん。
秀兄さんは、普通の男なら、私に近付く事さえ許さない。

しかし、私が家で『慎君との初恋の思い出』や、『慎君の中学時代の話』ばかり話していたし、秀兄さんは実際会っているから、『仲村慎は例外』だった。

…ちなみに、他の家族も同じ。

私は、無意識に、かなり語ってしまっていたらしい。
大兄さんと貴子ちゃんには、『仲村君と初対面て気がしなかった』と言われた。
「だからって、あんな強引に。…屋代君まで巻き込んで」

私は、呆然としていた二人に同情した。

私は慣れてしまっているが、あの二人は、高山家独特のマイペースパワーに圧倒されてしまっていた。

「そうなんだよな」

信号が赤になり、秀兄さんはハンドルの前で腕組みをした。

「そうよ、あんな強引に」
「いや、そっちじゃなくて」

信号が青になったので、秀兄さんは、ハンドルを握り、アクセルを踏んだ。

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