《MUMEI》

「俺と貴子は、二人きりにさせるつもりだったんだけど、兄貴がさ、屋代君もって言うんだよね」

秀兄さんは、ウインカーを出した。

私には、その理由がわかっていた。

私は…

おそらく、大兄さんに、試されている。

慎君が、祐希君の恋人でも。

その中にいても、本当に平気なのか。

カラオケや食事という、外の空間とは、また違う。

一晩、同じ屋根の下で、過ごす。

それが、耐えられるのか。
耐えられれば、

…私の望み

『偽装結婚』は、きっと、叶う。

そう、大兄さんに言われた気がした。

これは、『退院祝い』と言う名の




試練だと、私は思った。


そして、もう一つ。

これから、始まるのも、私には、必要な試練だ。


ウインカーを出したものの、なかなか右折できなかった車は、やっと、対向車に譲られて、ゆっくりと、

警察署の駐車場に入っていった。

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