《MUMEI》

良幸さんが、私の目の前で、壁を壊しそうな勢いで、何度も激しく叩き始めた。

透明なガラスだけに、まるで、私自身が叩かれているような錯覚を覚えた。

「そいつが、『仲村』か!この、浮気者!

一体、どれだけ『教育』すれば、お前は理解できるんだ!

いつになれば、『いい妻』になれるんだ!」

「落ち着きなさい!」
「とにかく座れ!」

両側にいた警察官が、力づくで押さえつけるが、良幸さんは激しく抵抗した。

「こ、んな…」

『信じられない』、と言う渡辺さんの言葉が背後で聞こえた。

良幸さんは、渡辺さんの前や、刑務所では、よほど『優等生』だったらしい。

秀兄さんが、私の向かいの席に座った(座らされた)良幸さんに、近付いた。

そして…

「何度か、会ってるんだがな」

と、

サングラスを外した。

その顔を見て、良幸さんの表情が変わった。

そして、一言。

「義兄さん(にいさん)…」
と言った。

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