《MUMEI》
買い物へ
タイキが話している間、ミユウはずっと黙っていたが、はたして話を聞いているのかどうかはわからなかった。

「……まあ、つまり僕の家は普通ってわけなんだけど」
タイキが話をまとめると、ミユウは「ふーん」とあきらかに興味なさそうに応えた。
「……聞いてた?」
「うん。聞いてた、聞いてた」
適当に頷くミユウは、おもむろに立ち上がり、窓からそっと外を窺った。
「……あんたは平凡に育ったんだね」
外を眺めながらミユウは言った。
「まあね。……君はすごい人生を送ってそうだけど」
タイキが言うと、ミユウは息を吐くように笑うと「まあね」と頷いた。
そして時間を確認すると、自分の荷物を手に取り、そのまま部屋から出て行こうとした。
「ちょ、ちょっと待って」
慌ててタイキは呼び止める。
「なに?」
「いや、なにって。どこ行くんだよ?」
「買い物よ」
「買い物?」
「そう。ちょうど、店が開くころだし」
「え、あ、じゃあ僕も行く」
タイキが言うと、ミユウは心底迷惑そうに眉を寄せて「なんで?」とタイキを見た。
「なんでって。……なんか、今日のミユウは変だし。その、なんていうか、心配っていうか」
どもりながらそう言うタイキに、ミユウは「気持ち悪いこと言わないでくれる?」と大きくため息をついた。
「言っとくけど、わたしは今から下着を買いに行くんだけど、それでもついてくる?」
「え……!」
思わずタイキは詰まってしまった。
さすがにそんな買い物に付き合うわけにはいかない。
ミユウはどうだとばかりに口の端を上げて笑っている。
「……ここで待ってます」
仕方なくタイキが引き下がると、ミユウは「よし」となぜか満足そうに頷いて靴を履いた。
「くれぐれも万引きはするなよ?」
最初に会った時を思い出し、タイキは指を突き付けて念を押す。
しかし、ミユウはその指を振り払いながら「それは、わからないけど」と悪戯っ子のように笑いながら玄関を出て行った。

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