《MUMEI》
朝 〈おれ〉
「蓬田さーん」


女の人の声に、目が覚めた。



「…んー…」



目をこすりながら体を起こす。



…なんか、変な夢見た…



「蓬田さん、おはようございます」



声に顔を上げると、


にっこりと微笑む白衣の天使―…



…白衣の天使…??



おれはすごい勢いでベッドから降りると、鏡の前に直行した。



「……夢じゃ、ねえ…」



鏡に映っているのは、髪ぼさぼさの蓬田。



「…どうしたの??蓬田さん」



後ろから、看護婦さんが(看護師って言わなきゃいけねーんだっけか)
心配そうに声を掛けてくれた。



「…や、なんでもないす…」



そう答えて、ベッドに戻る。



「…今日はレントゲン撮りますからね〜、
終わったら、帰れますから」



またにっこりと微笑むと、看護師さんは部屋を出て行った。



おれは両手を開いて、見つめる。


どう見たって、女の手。



ぎゅっと握り締める。



でも今は、おれの手―…



「かなめ!!!」



蓬田のお母さん。



「…起きたの、遅くなってごめんね??
ゴジラが、かなめがいないの淋しがって…
なかなか鳴き止まなかったのよ」



…ゴジラって、誰だよ…

松井か?松井なのか??



「…は、はあ…」



おれが曖昧に頷くと、



「でも、今日帰れるしね!!頑張るのよ??」



と、蓬田のお母さんは優しく微笑んだ。



いーなー…


こんな母ちゃん。




「…じゃあママ、
ちょっと椎名くんにお見舞いとお詫び、持ってくわね」



蓬田のお母さんはそう言うと、
持っていた紙袋を持ち上げた。



「…いってらっさい」



いそいそと病室を出る
蓬田のお母さんの背中に声を掛けた。

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