《MUMEI》

蓬田はそのままおれを
非常階段まで引っ張っていった。



「…蓬田??」



おれが呼びかけると、



「ごめんね、いきなり引っ張っちゃって…」



と、謝られた。




「や、別にいーよ。
それより、これ…」



おれは、蓬田の携帯を差し出す。



なんかのクマのキャラクターが揺れる。



「…あ、私も、これ―…」



蓬田も、おれの携帯を取り出す。



2人でそれぞれの携帯を確認すると、



おれの携帯には、
瀬田からのメールが何件か届いていて、



蓬田のには、かなり沢山の
見舞いのメールが届いていた。




「…これ、どーする?」



携帯を閉じて、蓬田に問いかける。


メールに感動したのか、
少し涙目の蓬田が顔を上げる。



おれが泣いてるみたいで、なんか気持ち悪…



「どうする??…やっぱり交替したほうがいいよね…」


「まあ、怪しまれるよりはな」



すると、はい、と蓬田が携帯を差し出した。



「…あの…も、もし、『西城先輩』からメール来たら…
すぐ、そのメール送ってくれないかな…??」



恥ずかしそうに俯く。



「おう…わかった」



言いながら、おれの携帯も差し出す。



そして、2人の携帯は交換され、


それぞれのアドレスと電話番号を登録した。



蓬田は自分のアドレスと番号覚えてたみたいだけど、


おれはさっぱりだったから。



「…『西城先輩』、だからね??」



蓬田が、念を押すように言う。



「はいはい…」



…西城先輩ってだれだよ…

秀樹か?秀樹なのか??



てか、なに赤くなってんだ??



―…あ。



もしかして…




「…おい、蓬田、お前熱でも―…」



おれが顔を近づけると、



「…ひゃぁ!!!」



ゴンッ!!



蓬田は、後ろに飛びのいて、段差で頭を打った。



「…大丈夫か…??」



驚いて聞くと、



「だ、ダイジョーブダイジョーブ!!」



と、蓬田は無理に笑顔を作った。



…変なやつ。

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