《MUMEI》

ドサッ

長身の私を支えきれず、華奢な慎君は、椅子ごと後ろに倒れてしまった。

慎君の腕は、さっきからずっと、私の胸の、下だ。

「「ご、ごめ…」」

私と慎君は、同時に謝った。

そこへ、祐希君が、
「志穂ちゃん、何、慎、押し倒してんの?」

と、茶化すように言ってきた。

…確かに、そう見えない事も無い、状況だった。

(恥ずかしい)

女が男を押し倒すだなんて。

私は、慌てて起き上がった。

「じゃ、じゃあ、私、お風呂入るから!
あと、適当にゆっくりしててね。
洗い物とか、そのままにしといてね。
えっと…」

それから、私は、祐希君に近づき、耳元で…

「お風呂入ったら、顔の絆創膏は取るようにって、大兄さんに言われてるの。
傷跡、慎君に見られたくないから、…先に寝てて。
別に、二人が何してても、防音しっかりしてるし、気にしないから」

と言った。

本当は、二人が本当に『ナニ』してしまったら、かなり気になるけれど…

せっかく、大兄さんが、三人で過ごす夜を作ってくれたのだ。

だから…

私は、何があっても、慎君が幸せなんだから、耐えようと覚悟を決めた。

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