《MUMEI》

しかも苦いし、と余計な一言で
どうやら互いに料理が不得手だったらしい
それでも互いがトーストを完食し
暇になったのか、何気なくテレビをつけていた
さして面白くもないソレにすぐ電源を切り、徐に深沢は外を眺め見る
珍しくいい天気で
幻影が深沢の身体を離れ、その陽の光の下普通の蝶と変わらず遊び始める
その様を眺める彼の顔は不思議と穏やかなものだった
この男は、何故嘆くことをしないのか
与えられてしまった永遠に、そして生き続けることを強いられた己が身を
それが不可思議で堪らない
「……アンタは、後悔したり、してねぇの?」
つい問うたソレに、深沢は僅かに肩を揺らしながら
「年中してる。けど、そんなもんした処で失くしたモンが返ってくるワケじゃねぇし」
困った様な笑い顔を向けてやる
後悔など、するだけ無駄で
失ったモノを求めるなど、無いもの強請りもいい処だった
「喋りすぎた。寝る」
話も中途半端に深沢は布団へ
入るなり寝息が聞こえ始め、深沢は眠り込んでいた
「……寝るの、速すぎだろ」
その速さに驚いて、頭から被った布団をめくってみる
中で眠る深沢は相変わらず、眉間に皺で険しい表情
それを以前試みた様に解してやろうと指を伸ばして
触れて、解してやった
せめて、今だけは煩わしい事を全て忘れさせてやりたい、と
「……何で俺、こんな事やってんだろ」
この男に近づいたのは幻影を奪う為なのに
今ではソレをする気が段々と失せてきてしまっている
そんな自身に戸惑いながら
しかし、考える事はせずにおこうと、深沢の隣へと潜り込むと
滝川もまた、寝に入ったのだった……

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