《MUMEI》

 広げたままの傘を下に向けて、だるそうにそれを前後に揺らしながら、のろのろと彼は僕の前を歩いていた。
 彼の綺麗にアイロン掛けされた制服の白いシャツの背中部分が、汗で濡れて少し透けている。
 今みたいな梅雨時期には湿気も多く汗もかきやすい。シャツが濡れてしまっても仕方がないことだ。
 だけど何故だろう。僕は彼の透けたシャツから見える背中を、例え通りすがりの見知らぬ他人にさえも見せたくはなかった。
 こんな風に僕が思っていることに、彼は気付いているのだろうか。

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