《MUMEI》

妖艶さには程遠い素足を洋服の裾から覗かせ、廊下を拭く俺の指を突いては誘っているらしかった。

勿論、そんな余裕も無く、廊下を拭き終えたら次は部屋の掃除に品物を取りにと行かなければいけない。

其が終わらないと晩御飯は与えられないのだから。

娘さんは腹を立てゝは廊下にわざとらしい足跡を付け、仕事を増やした。


そんなとき、お得意さんの受注していた簪が消失する。

当然こちらに疑惑の瞳は向けられる訳で、酷いものだった。
大の大人が大勢で子供を(といっても齢十八であるのだが。)寄ってたかって殴るわ蹴るわ、自身で言うのもなんだが、凄惨な現場であった。


派手に騒いだことで娘さんの帰りが晩いことに誰ひとり気付かなかった。


珍しく娘さんは和装で、髪に飾られていたのは云わずもがな……。

女将さん達が見合わした顔を思い出す度に可笑しかった。

娘さんは簪を俺から贈られたなんて云うので、否応なしに着の身着のまま投げ出され、路地裏まで這いつくばっていた所処を今の家に拾われた。

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