《MUMEI》
変化
呆気にとられながら、羽田はレッカが戦う姿を眺めていた。
レッカはその場にいたマボロシを一通り倒すと、ひとつ息を吐いてこちらへ駆けてくる。

「これでとりあえずは大丈夫だ。……先生?」

「……え?」

「いや、どうしたんだよ?ぼっとして」

レッカが首を傾げる。

「あ、ううん。ただ、びっくりしただけ」

羽田が応えると、「ふーん」とさして興味なさげに頷いてレッカは羽田の頭に乗ったままのテラに手を伸ばした。

「おまえも怪我ないか?」

テラはクルクルと喉を鳴らす。
その様子を見ながら凜は口を開いた。

「レッカ、なんでここに?」

「なんでって、この辺一帯俺の担当だから」

「見習いなのに?」

凜が言うと、レッカは「そうなんだよ」と肩を竦めた。

「突然、こんな大量にマボロシが現れただろ?倒しても倒してもキリがない。だから人手が足りてないんだ」

「そんなにたくさん?」

羽田が聞くと、レッカは大きく頷いた。

「今みたいな小型のやつなら、俺でも倒せるんだけど、中にはでかいやつもいてさ。そっちは複数人で対応してる……」

レッカはそこまで言うと、何かに気付いたかのように片方の眉をピクリと動かした。

「そういや、なんでマボロシは二人を襲ったんだ?あいつらには凜たちのこと、見えないはずだろ?」

「それが……」

「見えるみたい」

羽田の言葉を引き継ぎ、凜が言った。
レッカは目を丸くする。

「……マジ?でも、前はたしかに」

「そう。見えなかったはずなのに、今日は間違いなく見えてた。しかも、あいつらの攻撃もあたるし、こっちからの攻撃も効いた」

「……信じられねえな」

レッカは難しい表情で唸ると「だけど、なんでだ?」と凜と羽田を見つめた。

当然、羽田に答えられるはずもない。
代わりに凜が言った。

「理由はわからないけど、何かが変わってきてることは確か」

「何か……」

三人の間に沈黙が降りた。
羽田にはその『何か』はわからなかったが、そこに自分もしっかり巻き込まれていることだけは、ひしひしと感じていた。

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