《MUMEI》

俺は圓谷家の養子に出されることとなった。
あまりに早く事が進むので拾われたときからの決定事項だったのだろう。

成る程納得だ、そのための学問なのか。

お医者様の一家に養子に行くならある程度は博識なければいけない。

下町の商家の下男で濡れ衣だとしても、盗みを働き追い出されたなんて良い聞こえではない。

立派なお医者様が無学で掃除と金勘定しか出来ない齢十八の男子を引き取ったとなれば男爵家と圓谷の両家に泥を塗ることになる。

学問から行儀作法、上流貴族の名前まで叩き込まれ、頭が、捻れてしまうかと思った。

麻の混じった布に慣れると良質の布がむず痒い。

洋服の詰め襟も着物を恋しくさせた。

圓谷は北王子家に近く実質、離れに住んでいるだけの半同棲状態だそうだ。
春三はわざゝど田舎から俺と話すためだけに都会の医院まで足を運んでいたことになる。



長男が肺を悪くして亡くなり、祖父が纏めていた北王子も足を悪くしてからは次男が継ぐという形になっていた。

三男は子爵家に婿へ、四男は圓谷医院の婿へ行った。

祖父はしかし、納得していなかったらしい。今更、俺を捜し出し跡目にしたいと次男と衝突し、三男、四男の仲介によって俺は圓谷家が養子に貰い北王子家に棲まうという結論へ到った。

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