《MUMEI》

それから私と慎君は、遊園地を楽しんだ。

日曜日で、クリスマスだけあって、園内は混んでいたからそれほど乗り物は乗れなかったけど、それでも、楽しかった。

『はぐれるといけないから』と、慎君から手も繋いでくれたりして、途中から本当にデートみたいだった。

「最後はやっぱりこれでしょう」
「う、うん」

私達は、観覧車に乗り込んだ。

向かいあって、座席に座る。

「楽しかった、今日はありがとう」
私は笑顔でそう言った。

「…こちらこそ」
そう言った慎君の笑顔は、夕日よりまぶしかった。

それから、私達は無言で景色を眺めていた。

ふと見ると、慎君の、瞼が、段々と重くなっていった。

そして、慎君は寝息を立て始めた。

(今なら、言えるかも…)

私は、そんな誘惑にかられて、慎君の耳元で囁いた。
「慎君。大好きよ。ずっと…」

私は、そっと座席に戻ると、…寝たふりをした。

「おかえりなさいませ」
係員の声がしたので、私は目を開けようとした。

すると…
「すみません、もう一周お願いします」
慎君が延長を申し出た。

慌てて私は寝たふりを続けた。
「行ってらっしゃいませ」係員の声と、ドアを閉める音がした。

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