《MUMEI》




「こっち、右だった?」

『んーん、真っ直ぐ。』


今、葉子ちゃんちに向かってる。

…篠崎と。


「まじかよ。だから昨日…。」

『昨日?』

「いや、なんでもない♪」

『そう…。』

「…。」

『…。』


掴みどころがないって言うか…。

たまにわからない。


「もしかして嫌だった?行きたそうな、でも行っていいのかどうか迷ってるっぽい顔してたからさ♪」

『んーん、そんなんじゃなくて…。あ、いや、そうなんだけど…。』

「?」


他人に、気ぃ遣いすぎじゃない?

自分の事は全然話さないし。

単に優しいのかな。

…誰にでもこうなのかな。



『ねぇ、篠崎。』

「何?」

『気ぃ遣ってくれなくてもいいからっ。』



立ち止まっちゃったよ…。


「…。」

『ホント…に。あんまり人にばっかり気ぃ遣ってると、自分が持たないんじゃ…。』

「…。」

『優しいんだよね?ありがとう。でもほら、保健室で初めて喋った日。』

「…。」


なんか喋ってよ…!


『…と、その日の放課後も。あたしあの日で篠崎には救われてるから…。』

「…。」

『…。』


さっきからその目はなに?(泣)

…。


『ね、今度はあたしが篠崎を助ける!物置…あの事もあるしっ。なんかあるならバンバン言って来て!』

「俺、一葉にはもう救われてるよ?」

『…え?』


?!


「…ありがとう。」



篠崎に…

抱きしめられ…てる…。



「それから…」


いい匂い。






「ごめんっ…!」







もし今顔を上げて篠崎を見たなら…泣いているのかもしれない。

そんなか細い声で、篠崎はあたしにそう言った。


あたしがこの言葉の意味を理解出来たのは、ずっと後になってからだった。

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