《MUMEI》

実家に戻ると、仕込みを終えた秀兄さんと、メイファさんが、居間でおせちを食べていた。

…遅い昼食のようだった。
「秀兄さん。私、着替えてマンションに戻るね」
「送っていくよ」

秀兄さんが、箸を持ったまま立ち上がった。

「でも…」

私は、チラリとメイファさんを見た。

(邪魔しちゃ、悪い)

「俺とタクシーで行くから、大丈夫だよ」

「え?」

「はぁ?!」

徹君の思いがけない言葉に、私と秀兄さんは驚いた。
秀兄さんは、何だか怒っているようだった。

「一緒に、来るの?」
「うん、泊めて」

(そりゃ…)

部屋は、空いている。

「でも、仕事は?」

徹君は、アメリカの病院に医師として働いている。

ものすごく優秀で、脳外科と外科の両方に所属している。

「久しぶりに、日本を満喫したくて、長期休暇をとったんだ」

『だから大丈夫』と、徹君は笑った。

「…どのくらい?」

「三ヶ月」

「そんなに!」

私が驚くと…

「ふ …」

(『ふ』?)

見ると、秀兄さんの体が震えていた。

「…秀兄さん?」

私が声をかけると…

「ふざけるな〜!!」

秀兄さんが、絶叫した。

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