《MUMEI》
母の依頼
夕飯は、徹君のリクエストで、肉じゃがにした。

徹君は、子供の頃頻繁に高山家に遊びに来ていて、和食がお気に入りになっていた。

「志穂さ〜」
「ん?」

「『帰ってきたら嫌いになるから』って言ったんだって?」
「んぐ?」

私は、じゃがいもを喉に詰まらせそうになった。

『帰ってきたら嫌いになるから』

それは…

八月。

あの、『事件』の直後に、私が大兄さんに頼んだ…
両親への伝言だった。

「凹んでたぞ、二人共」

「…」

徹君の言葉に、返す言葉が無かった。

「志穂」

「…何?」

徹君は、真剣な表情になっていた。

「風呂上がったら、傷跡見せろよ。…俺、その為に日本に来たんだからな」

私は…

ゆっくり、頷いた。

(そうか…)

きっと、母さんが頼んだのだろう。

(それにしても…)

三ヶ月は、長い。

何か、他にも理由があるかもしれないが、私には、わからなかった。

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