《MUMEI》

「しかし、相変わらず、癒し系だな、志穂は」

数分経過しても…

徹君は、私を抱き締めたままだった。

(もしかして)

「…徹君」
「ん〜?」

「…彼女と、ケンカでもした?」

私の質問に。

徹君はビクッとして、私から離れた。

「…何でわかったの?」
「何となく」

母さんが、徹君を私のマンションに泊める事を許したのは、徹君に恋人がいて、『絶対安全』と思ったからだろうし…

割と、母さんにも負けない徹君が、恋人に三ヶ月も会えなくなるのに、この『依頼』に応じたのは…

恋人に、会うのが気まずい状況なのかなと思った。

「…志穂は、鋭すぎるよ」
「どうして、ケンカしたの? もしかして、母さんが何か言った?」
「いや〜、それがさ…」

徹君の、説明は、こうだった。

徹君の彼女は、同じ病院で看護婦をしている、徹君と同い年の、ケイトさん。

勤務中、突然母さんが、徹君の職場に訪れて、私の傷跡と、体調チェックに行ってほしいと頼み込んだ。

徹君は、快く応じたが、期間が『三ヶ月』と言われて、悩んでいた。

そこへ、ケイトさんがやってきて…
『この浮気者!』と、徹君を殴り飛ばした。

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