《MUMEI》

私は、状況が理解出来なかった。

『悪い!慎がヤバいから、早く入れて!』
「わ、わかった」

『慎がヤバい』

その言葉に、私はためらいなく祐希君に入口のオートロックの暗証番号を教えた。

それからすぐに、玄関のチャイムが鳴る。

「はい!って、どうしたの?!」
「悪いけど、トイレ借りるぞ!」

肩で息をしながら、祐希君は慎君をお姫様だっこしたまま、私の横を通り抜けた。

慎君は、

真っ青、だった…

どうやら、祐希君がトイレで吐かせているらしく、苦しそうな声が聞こえてきた。

(そうだ、お水)

私は、冷蔵庫から、ミネラルウォーターのペットボトルを取り出すと、トイレに向かった。

「あの、これ…」

「あぁ、悪いな、ほら、慎水だ」
「ん〜もう、飲めない〜!」

慎君は、ヘラヘラ笑いながら、祐希君に抱きついてきた。

完全に、酔っ払っている。
「ねぇ、本当に、どうしたの?」

慎君は、それほどお酒に弱いわけでもなく、いつもきちんとコントロールして飲んでいた。

「知るか、木下と飲んでたみたいで、『様子おかしかったから、無事家に帰ったから連絡してみて』て言うから連絡したら、あんなとこにいるし」

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