《MUMEI》

すると、慎君は、話題を変えた。

『志穂、14日夜空けといて。あと、俺、ケーキがいい。夕方行くから』
「え?何? 突然」

私は、ものすごく動揺していた。

(夜にって…)

『いいから』

慎君は、いつになく強引だった。

「で、でも。徹君いるし…」

と私が言うと

「俺が、何〜?」

と、徹君が、携帯に向かって話しかけた。

「ううん、何でもない」

と、私は慌てて声をかけた。

「ご、ごめんね。うるさくて」
私が謝ると…

『いや、いいよ。
じゃ、そういう事で』

慎君は、一方的に、電話を切ってしまった。

私は、呆然とした。

ゆっくりと、頭の中を整理する。

14日は…

バレンタインだ。

(そうか…)

私は、クリスマスのように、祐希君と二人で食べるケーキを頼まれたのだと…

思い込む事にした。

『夜空けといて』は…

考えない事にした。

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