《MUMEI》

「じゃあ、俺が死んだらどうするわけ?」
「えっ?」
「お前等は泣くの?」
 友祥が友祥じゃないみたいだった。
 友祥が飛び降りた。


 俺と、銀也が右手と左手をひとつずつ持ったため落ちなかった。
「放せよ・・・」
「離さない」
「放せよ」

 俺たちの手と、友祥の手がすり抜けた時・・・・・・・・・友祥が・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


 今まで暖かかった感触がその一瞬でなくなった。
 なんという喪失感だろうか・・。


「俺が・・・・・・・・・・友祥を・・・・・・・殺した」
銀也が言った。
「そんなことねぇよ」
「でも・・・・・・・・・」
 俺と銀也は屋上から階段をかけおりて、校庭に向かったんだ。

 そこには血を大量に流す友祥がいて・・・・・周りにそれを見ものにしている奴等がいた。


「友祥・・・死ぬなよ」
「友祥ッ・・・!!」
 大量の血を流しながらも・・・・友祥はかすかに意識があった。
 俺と、銀也の手を握り返してくれたんだ―。
 そのときの友祥はいつもの友祥に戻っていた。優しい友祥に。



 救急車に俺たちは乗った。
 そこから、どんな道をたどって手術室までやってきたのか思い出せない。
 思い出せるのは・・・・・・手を離したときの・・・喪失感と・・・感触だった。
「俺が・・・・・殺した」
「俺がだって・・・・」
「友祥は・・・・?」
「・・・・・優・・・・・・・」
「手術してる・・・・・かなり危険な状態らしい・・・・・・」
「友祥・・・・」
 優が泣いていた。俺たちも泣いていたけど・・・。
「涼哉・・・銀也・・・」
燐と、綾が来た。
 

「辛かったね・・・・」
 俺を抱きしめたのは・・綾だった。
「綾・・・・・・・・・」
 男のくせに泣いて、体が震えてて・・・情けないと思った。でも・・どうしようもできなかった。



「友祥の親は・・・?」
「遅すぎない?ここに運ばれて8時間も経ってるんだよ?」
「そうだよね・・・・」

「そういえば・・・親に暴力振るわれてるって言ってたな・・・」
「そんなの親じゃねぇよな・・・・」
「親って・・大人ってひどいよね。みがってだよね・・。友祥・・・・可哀想だよ・・。子供なんて・・・親を選べなくて・・好き勝手に親が産むわけなんだから・・望んだわけじゃないのに・・・」
「友祥・・・生きていて」



「ガラ・・・」
「先生・・・友祥はッ!!」
「最善を尽くしましたが・・・・」

「友祥・・・死んじゃいやぁぁぁぁ」
「生きろよ」


 霊安室だった。真っ暗で・・悲しい部屋。
「友祥・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ごめん・・・・・」
 友祥の手を握った。すり抜けた時と同じ手を。
 あのときには確かに、温もりがあったのに・・・もう・・・・。
「この手・・握っても・・・暖かくないんだよ・・・・・・・・友祥じゃねぇよ・・・・友祥は・・・・・・・・・・・友祥は・・・・・・・いつも・・暖かくて・・・・・・・」
「友祥・・死んじゃうなんて・・・・・・・・・・・・」


 俺は信じられなかった。親友の友祥が死んだなんて・・。

 俺達は何にも分かっちゃいなかったんだ。簡単に『尊い命』だとか言って・・・・・その重みがどれだけのことか・・・わかってなかった。

「なぁ・・友祥・・・何で1人で抱え込むんだよ・・・・・・・・・抱え込むなよ・・・・・・」
「俺たちに言ってくれよ・・・・・・」


 結局、友祥の親が来たのは、次の日だった。
「死んだんだ」
 悲しい顔もしないで、そういう親を殴りそうになった。


 なぁ・・友祥・・本当に死んでよかったと思う?
 そっちの世界、思ったより・・・良くないと思うんだ・・・。
 だって・・寂しくないか??
 戻ってこいよ。
 またさ、いっつも銀也に追い抜かれる陸上をやろう・・?そんでさ、いつかさ・・・・銀也だって追い抜かして・・早くなって・・・・・・そんな風に・・・・お前と・・ずっと一緒にいたかった。
 いっぱい思い出つくりたかったよ。

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