《MUMEI》 バレンタイン当日。 結局、私はチョコケーキを作っていた。 (ついでよ、ついで) 私は、毎年兄妹に、ビターチョコ入りのパウンドケーキをプレゼントしている。 いつもは、前日作って当日渡しているが、今回は、次の日に渡す事にした。 …たまたま、明日が日曜日だからだ。 それに、今の時期は仕事が暇だから、明日はたまたま休みだった。 そう、たまたまだ。 私は、慎君に渡すケーキを見つめた。 …たまたま、一番小さなケーキ型だったから、ハートの形になっていて たまたま、一番得意なクラシックショコラにしてみた。 …丁度、可愛いラッピングを雑貨屋で見かけたら、たまたま、可愛く仕上げている、だけだ。 「明らかにこっち、本命じゃん」 冷蔵庫の中の箱を見ながら徹君が言うので… 「パウンドケーキだっておいしいわよ」 と、私は、焼き上がったパウンドケーキを網の上に置いて、冷ます事にした。 これをアルミホイルで包んで、切り分けとラッピングは明日行う。 ―その時。 玄関のチャイムが鳴った。 私は、徹君に『かわりに行って』と頼んだ。 何となく 気まずくて、慎君に会うのが怖かった。 前へ |次へ |
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