《MUMEI》 玄関先から、会話の内容は聞こえないが、慎君と、徹君と、祐希君の声がした。 (やっぱり…) バレンタインは、祐希君と過ごすんだなと思った。 すると、徹君が台所に戻ってきた。 「何?ケーキ?」 私が訊くと、徹君は首を横に振った。 そして、とんでもない事を言った。 「俺、屋代さんと朝まで一緒にいるから。 仲村、ここに泊まるって」 ―と。 そして、客室からいつの間にか用意してあった『お泊まりセット』を持ってきて、玄関に走っていった。 私は、一瞬、固まって… パニックになって、 ベランダに出て、エアコンの室外機の側に隠れた。 (寒い…) 部屋着のまま外に出たので、北風が身にしみた。 ふと駐車場を見ると… 徹君と、祐希君がいた。 …慎君の、姿はない。 不意に、私と徹君の目が合った。 徹君は、笑顔だった。 (何だったんだろう) それから二人は、祐希君の車で駐車場から出ていってしまった。 (慎君は…) 考えている途中で… 鼻が、ムズムズしてきて クシュンッ 私は、小さくくしゃみをした。 前へ |次へ |
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