《MUMEI》

私がすっかり途方にくれていると…

コンコンッ

慎君が、脱衣所のドアをノックした。

「は、はい!」

私は、慌てて返事をした。
「もう、着替えた?」
「え?、あ、一応…」

慎君はドアノブを回したが、鍵がかかっていて、中には入れなかった。

(良かった)

慎君は、私の部屋にある鍵の存在は知らないようだった。

「着替えたなら、出てこいよ」
「…」

(こんな格好じゃ…)

私は、無言だった。

ドア越しに、慎君がまた話しかけてきた。

「なぁー、冷蔵庫のケーキ、俺のだろ?
一緒に食べよう?」

「…食べてていいよ」

すると、慎君が、少し間をおいて…

「パウンドケーキ、そのままだけど?」

と言ってきたので…

「あ、忘れてた!」

カチャッ

私は思わず鍵を開けてしまった。

「…何、そのタオル」
「…この服が悪い」

どう見ても、おかしいのはわかっているが、私はタオルを取るわけにはいかなかった。

これ以上、嫌われたくなかった。

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