《MUMEI》

余りにも慎君に余裕があるので、私はある疑問をぶつけてみたくなった。

「し、慎君は!」
「ん?」

慎君が、笑顔で私の言葉を待っていた。

「本当に、…無いの?」
「…何が?」

まだ、慎君は私の言いたい事がわからないようだった。

「あ、あの、女の子と…」
私がそこまで言うと、慎君は、ようやく私の質問を理解した。

「無いよ。何で」
「いや、慣れてるなと…」
とても、初めて女性を相手にするようには思えなかった。

「志穂は、初々しいよね」
「…そんな事…」

私はただ…

良幸さんに言われるままに、していただけだった。

それに、もう、綺麗な体ではない。

私は少し涙目になってしまった。

「よし、続き、しよう」
「…え?」

慎君が、立ち上がり、私の手をとった。

続き…

私の足が震えた。

「さ、どっちのダブルベッド行く?」

どっちの、とは、私の寝室か客室かという意味だ。

(どうしよう)

正直、怖い。

でも、こんな機会はもうないかもしれない。

ずっと好きだった人が、自分を望んでいる。

私は、消えそうな声で、
「寝室でお願いします」
と言った。

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