《MUMEI》

人数が増えたので、私達は、リビングのソファーに座る事にした。

「…さて」

母さんが、まず、慎を見つめた。

「やっと、慎君、うちの志穂に食い付いたって?」
「食っ…」

「母さん!」
私と慎が真っ赤になったのを見て、母さんは、ニヤニヤしながら続けた。

「いや〜、徹を説得して、送り込んだかいがあったよ。
やっぱり、恋愛を発展させるには、わかりやすいライバルは必要だよね」

―つまり。

徹君は、私に気があるような振りをして、慎を挑発し、私達の仲を発展させる為にやってきた『役者』だったのだ。

その、わかりやすいライバルの存在で、慎が行動を起こし、私と…結ばれた。

「あの…」
「ん?」

慎が、母さんに恐る恐る質問した。

「それで、俺が諦めちゃったら、どうしてました?」
「ん?二度と会わせないように、志穂を海外に連れだして、私が選んだ男と結婚させてたよ?
徹の他に、ちゃんと選んであったから」

…サラリと母さんは言い切った。

(やっぱり、…)

母さんは、本気だった。

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