《MUMEI》

「お疲れ!ありがとうなっ」

「ううん、」

隣りにドカッと座られて、焦りながらも
私は冷静を装って、お茶を一口のんだ。



「なぁ、葵央ちゃん」

「…はい」

突然、真剣な表情を浮かべた上田君。
ビクつきながらも、顔を見て返事をした。







「その子、葵央ちゃんの子なん?」



少しの間を経て、上田君から出てきた言葉は、これだった。






「…ぷっ」


あまりにも真剣に聞いてきたものだから、おかしくて笑ってしまった。



「え、何で笑うん!?」

「だって、凄く真剣だったから…」


膝に座っている宇葵も、笑ってる私をみてきゃぴキャピ笑い出した。



「…違うん?」
「違うよ。この子は妹」

「え!でも、さっきお前の事ママ言うとらんやったか?」

「あー、それはまぁ…色々あって」

苦笑を見せれば、そっかと言い、何だか少し複雑な顔をした上田君は、さっと立ち上がって

「ほんなら葵央!俺がその子の、パパになるわ!」

「え?」

そう言って上田君は、自信満々みたいな笑みを見せて、宇葵の頭を撫で回した。

「いや!待って!この子、てかパパはいるから…」

「へっ?」


多分、上田君は私の『色々あって』を両親の死だと思ったのだろう。

…半分は当たってるけど、お父さん生きてるしね。


「あ。……ごめんっ」
「い、いいよ!謝らなくて!」


あまりにもシュンとするものだから私はとっさに声をあげた。


上田君は私をみてコクンと小さく頷き、また私の隣りに腰を降ろした。





「名前何ていうん?」

「…宇葵だよ」

顔を覗きこんで優しく問われた宇葵は、恥ずかしそうな素振りをみせて、小さな声で答えた。

「うたちゃんか。宇葵ちゃん、可愛いな」

そう言われて、モジモジしながら私の顔を見上げる宇葵。そんな宇葵が可愛いくて、面白くて。私はニッコリ宇葵に微笑みかけた。

「葵央そっくりやな」
「えっ、そうかなぁ?」


今気付いたけど、呼び捨てされてる…

何だか懐かしいのは、気のせい?

って懐かしいっておかしいか。
私、同年代の男子にあんまり絡んだ事ないから、呼び捨てなんてされた事ないし。


こんなに男子と話すのって、初めてだったりするしね。



…うん、


意外に普通だな。









「りぃちゃーん、うーちゃん!そろそろご飯やけん、帰っておいでぇ」

隣りにある自分の家から、いつの間にか帰ってしまっていたおばあちゃんの声が聞こえた。

宇葵はピョンっと私の膝から跳んで、飲んでしまったリンゴジュースが入っていたコップを私に差し出した。


「あ、お茶とジュースありがとう。」
「こっちこそ、あんがとな。ならまた明日っ」

「うん、明日ね。」


そう挨拶をかわし、宇葵の手をとって隣りの自宅に向かい歩いていった。





嬉しそうに笑う、陽介を背に。




そして






その日の夜。


自室から見える隣りの家の部屋は、陽介の部屋だと知って、鳥肌が止まらなかった葵央なのでした。

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