《MUMEI》
【大と楓】
「先生、…高山先生!」
「あ〜、主任ちゃん、何?」

『主任ちゃん』

その呼び名に、櫻井(さくらい)楓は、目の前にいる美形の外科医を睨みつけた。

「会議始まりますよ!」
「ん…」

ゆっくり立ち上がる彼―高山大は、楓よりはるかに背が高かった。

…もっとも、楓の身長は標準以下なので、大体の人間は、そうなのだが。

大の手足は長く、顔は小さく、女性の楓が嫉妬するほど…

美しかった。

神様は、不公平だと楓は思った。

こんな美しい外見の上に、優秀な外科医としての才能まで、大に与えてしまったのだから。

楓は…

大が苦手だった。

…どちらかと言えば…

嫌いだった。

ただ、『外科医と看護主任』という立場上、楓が大を無視するわけにはいかなかった。

それにしても、一ヶ月近く突然『家庭の事情』で休んでから、復帰した大は、誰の目から見ても、いつもと違っていた。

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