《MUMEI》

「大丈夫?」

笑顔で帰国した大を一目見て…

妹の志穂が突然、そう、声をかけた。

他の家族は何も気付かなかったのに…

大は、志穂を抱き締めて…
泣いた。

「大、兄さん?」
「何でもない。久しぶりに、志穂に会えて、嬉しかったんだ」

大はそう言うと、志穂から離れた。

大が医者を目指したのは、志穂の持病を治したかったのが、理由だが…

『そっちは向いてないよ』と…

志穂がすすめたのは

脳外科ではなく

外科だった。

実際、大はその後、若くして優秀な外科医になっていた。

大は、志穂に、何度も救われた。

なのに、今、志穂を救えていないその無力さに…

大はつい、仕事がおろそかになってしまっていた。

命を預かる医師として、それはいけないと、何度も気合いを入れたが、なかなか自分では上手くいかなかった。

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