《MUMEI》 谷本「あれ?どこ行った?」 息を切らせて走りながら、彼女の姿を探していると、別の人影を発見し、タイキは思わず足を止めた。 少し前方、中年でやたらがっしりした体型の男が「ちくしょう!!」と吠えている。 誰かはわからないが、一般人とは思えない。 なんとなく、関わらないほうがよさそうだ。 タイキはさっと体の向きを変えて走り出した。 同時に「待て!」という声がその場に響いた。 思わず振り返る。 すると、眉間に深いシワを刻んだ怖面の男が猛然とタイキを追ってきていた。 その距離はあっという間に縮まっていく。 この時、タイキはようやく確信した。 自分の足は遅かったんだ、と。 追ってきた男は「待てって言ってんだ、ろうが!」とタイキに体当たりをしてきた。 「うわ!」 どうしようもない衝撃に、タイキは男の下敷きになる形で転倒する。 男はすかさずタイキの両腕を後ろへ捻り上げた。 激痛がタイキを襲う。 「ま、待って。なんですか。なんで、こんな」 痛みに耐えながらタイキは男の顔を見上げた。 彼は眉をクワッとあげて「はあ?ふざけるな。駐車場で人を殺しただろうが」と耳元で怒鳴る。 とつぜんの突拍子もない話にタイキは目を丸くした。 「人を?僕が?冗談。僕はただ人を探してここに来ただけだ」 「ああ?じゃ、なんで逃げた」 「逃げたんじゃない。こっちに人影を見たから。なのに、あんたのせいで見失った」 本当はそれ以前に見失っていたのだが、つい口から出てしまった。 タイキの言葉を信じたのか、男はふっと力を緩めて言った。 「なんだよ、ったく、まぎらわしい」 男はよっこらせと体を起こす。 「なんだよって、こっちが言いたいし。あんた、誰?」 思わずミユウのような言葉使いになりながら、タイキは服についた埃を払った。 男は懐からなにやら手帳を取り出し、タイキにつきつける。 「俺は刑事の谷本だ。お前は?」 「大貫 タイキ」 「ID見せろ」 なんとも傲慢な物言いにカチンとくるが、どうやら手帳は本物らしい。 刑事相手に嘘はまずいだろう。 タイキは素直にポケットからIDを取り出した。 谷本はそれをさっと確認してから小さく頷いた。 「で?誰探してたんだ?」 「……女の子です」 どこまで言うべきか迷ったが、嘘をつく理由も見つからなかった。 タイキは正直に言うことにした。 もしかすると、ミユウを一緒に探してくれるかもしれない。 彼女を探さなくては。 なぜかはわからないが、タイキの心にはその想いだけが広がっていた。 前へ |次へ |
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