《MUMEI》 何時になく緊張している。 男爵家の頂点に立つ者の前へ顔見せに、つまり今日で自分の身の置き場所が決定されるのだ。 広間よりも下に厳かな雰囲気を醸した扉を見付けた。 どの部屋よりも距離が置かれているので権威を持つものであることが一目で理解できた。 「父さん、林太郎君を連れて参りました。」 「……入れ」 扉越しに聞いてもよく通る声だ。 春三の後ろに着いて行く。 西洋の椅子に風格を見せながらどっしりと座っている此の老人こそ、北王子兼松男爵であった。 和服も素人目に見ても高価な品であり、白髪は均等に後ろに流され同じ色をした髭も一分の乱れもなく揃えられていた。 「もっと近付かねば儂が見えまい。」 聲も風貌も全てにおいて迫力がある。 前へ |次へ |
作品目次へ 感想掲示板へ 携帯小説検索(ランキング)へ 栞の一覧へ この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです! 新規作家登録する 無銘文庫 |