《MUMEI》
【大志と果穂と…もうひとり】
出会いは春だった。

「うわっ、しまった」

大学生だった佐藤(さとう)大志は、春風に、持っていたレポートをさらわれた。
通学路に、紙が散らばる。
大志は慌ててそれを拾い集めた。

最後の一枚が、通行人の足元に落ちていた。

「すみません!」

大志が声をかけると、

「これ、あなたの?」

『彼女』は、レポート用紙を拾い上げて、大志を見つめた。

「はい、ありがとうございます」

大志はレポート用紙を受け取ろうとしたが…

『彼女』は大志の顔とレポート用紙を交互に何度も見つめていた。

「あの…?」
「あなた、名前は?」

『彼女』が突然質問してきたので…

「佐藤大志…ですけど?」
「…そう、覚えておくわ」
大志は『彼女』の言葉の意味がわからなかった。

それより、レポートを返してほしかった。

「早く、行こうよ」

『彼女』の隣にいた女の子が、『彼女』を急かした。
「わかったわよ。はい、これ」

「どうも」

大志はようやくレポートが、揃い、安心した。

「私、高山果穂。こっちは、真部桜子(まなべさくらこ)。
またね…大志」

そう言って、『彼女』果穂と、『女の子』桜子は去っていった。

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